「好きにしていいとは言ったが、
殺さないとは言ってないだろ・・・。」
何と、この絵に小説を付けていただきました!!
↓
仲葉未里様より
「空白」
この空白を埋めるもの
生まれ出でてからずっと 今もなお抱えているこの空白を埋める何かを
無気力なままで彷徨い探し続けている
ないものねだりと知りながら―――
荒れ果てた旧市街地。
そこに棲む人間の様子からも、建物の状態からも、治安が悪いのが見て取れる。暴走を楽しんで溜まる若者、昼間から客引きをする女、金を手に売人に群がるボロ布のような人間達。
裏路地を覗いたら死体があるなんて状況も当たり前の場所。
そんな街だから。
大通りの真ん中をふらふらとした足取りで歩く一人の男を、不自然に思う者などいなかった。
逆立った短い銀色の髪。
鋭いカタチの中にはめ込まれた、血のような赤い瞳。
着の身着のまま、何も持たず、ただ歩いていた。
整った顔立ちをしていたが、その顔に生気は見られない。
彼の名は、デュフォーという。
名前以外の彼の過去を知る者は、いない。少なくとも、ここには。
存在意義を無くしたものたちが行きつくこの街
そいつらが棲みつづけられるような街
だから
ここに来れば 手に入るような気がした
オレがずっと抱えている空白を 埋めてくれる何かが――――
「なあ、兄ちゃん。売ってんの?」
後ろからした声にデュフォーが振り向くと、そこには若い男が三人、へらへらとした笑みを浮かべながら立っていた。背は皆、デュフォーより少し高いくらい。服装の感じからして、この街に溜まる暴走集団の一員、もしくはギャング子飼いの下っ端といったところか。
「……何をだ?」
デュフォーが聞き返した。
男のうち一番背の低い者が、さもおかしそうに、
「あれ、違うの。残念だなあ」
と言って、次いで一番派手な皮ジャケットの男が続けた。
「この辺じゃ珍しくないぜ?男も女もな」
それで理解できたのか、デュフォーは眉根を顰めた。
要は、自分は身売りと勘違いされたのだ。たしかに街に入ってすぐ客引きの女に腕を引っ張られたし、しばらくすると男も見かけた。このような街、身体しか持たない者がとりあえず生きていくには、それが一番手っ取り早いのだろう。
唯一の財産を売り飛ばし、かわりに生きる金を得る。
まあその生き方は、路地裏にいくつかあった素っ裸の死体に行き着かない、という保証もないのだが。
「それじゃあ兄ちゃん、なんでこんなとこにいるんだい?」
ピアスだらけの男が、からかうように訊いてきた。
何でだって?
ああ、本当に何故だろうな。何でこんなところにいるんだろう。
何で……
オレは、生まれてきて、そして生きているんだろうな。
おまえたちはどうなんだ?
知っているからここにいるのか?
おまえたちの中に、オレと同じ空白はあるのか?あったのか?
オレは空白を埋めるものが欲しい
空白を埋める何かが欲しい……
おまえたちの提示するそれは オレの空白を埋めてくれるのか……?
「…………買うか?」
口をついて出たその言葉を聞き、男三人は揃って笑みを浮かべた。
「なんだよ、やっぱり売ってんじゃねえか」
ピアスの男がそう言って、呆れたように溜息をつく。
最初に声をかけてきた背の低い男が、皮ジャケットに向かって何かジェスチャーをした。
皮ジャケットは頷く。どうやら三人の中でこの男が一番格上らしい。
「ああ、いいぞ。この間の盗みで、稼ぎはあるからな。いくらだ?兄ちゃん」
「……いくらでもいい。勝手に決めてくれ」
しばらくして男が差し出したその金額が多いのか少ないのか、デュフォーにはわからなかった。
もっと言えば、金額などどうでもよかった。こんな下衆な奴らに、空白を埋めるものを探す意義など理解できまい。金目当てと勘違いさせておけばいいと、そう思ったからそうしておいた。
金を受け取り、着ていたジャケットの内ポケットにしまった。これで、取引は成立した。
さっそく男の一人がデュフォーの腕を掴み、そのまま三人で囲うように、どこかへ向かい歩き出す。
途中、背の低い男が、これからの饗宴を思い浮かべてか、だらしない笑顔で告げる。
「大丈夫かい兄ちゃん。こっちは三人だぞ?」
勘違いさせておけばいい。
だから、デュフォーはこう返した。
「……構わない。金さえくれるなら、好きにしていい」
人間はここまでだらしない顔ができるんだなと、いささか感心しながら。
連れていかれたのは、街にある荒れ果てた建物のひとつ。
彼らが溜まり場として使っているのか、調度品などはかなり傷んでいたが、床はある程度片付けられていた。片付けたといっても、邪魔なものを部屋の四隅に寄せただけの片付け方だったが。
部屋の真ん中に置かれ、薄ら笑いを浮かべた三人に囲まれたなか、デュフォーは何も言わずに自分の服を脱ぎ始めた。三人はその様子を楽しそうに眺めていたが、気にも留めなかった。全てを脱いで部屋の入り口近くに投げると、皮ジャケットの男が脱ぎ始める。
優先されている――――やはり彼が一番格上らしい。
「ほぉ…綺麗な身体してるな、兄ちゃん。男娼みたいだぜ」
他人に触られるのを気持ち悪いと思うような感覚は無い。だが、後ろから抱きかかえながらべたべたと触ってくるこの男の手つきは、ナメクジのようだと思った。
それでも、羞恥だとか屈辱という思いは湧いてこない。己の渇いた心を思い知らされる。
そのまま座らされ、脚を開くよう命じられた。やはり何も思わず、デュフォーはその通りにした。
「それじゃあ、まず俺だな……」
後ろにいた男が開いた脚を掴む。
そうして猛った自分自身を、男を知らない蕾に宛がい、慣らしもなしに一気に貫いた。
「――――っうッ…」
無理に貫いたために、蕾からはたちまち血が流れ出しそこを赤く染める。
「へっ……もしかして初物か?いい締め付けだな」
男は息を荒くして笑い、容赦なく注挿を開始した。
一部始終を見ていた後の二人も、男のジェスチャーを見るなり自分の服を脱ぎ、開いている場所を使おうと迫ってくる。―――予想していた通りの展開だ。デュフォーは、されている行為に背筋を這いまわられるような感じはしていたものの、それ以上内面に踏み込んだ思いは全く湧かなかった。
「ぐ……ぅ」
「ほら、ちゃんと味わえよ」
口に滑り込まされて、まるで道具のように頭を掴まれ揺さぶられる。
入れる場所をなくした最後の男は、仕方なくデュフォーに両手で扱くよう命じ、快楽にありついた。
三人で一人を犯すという異常な状況。
めちゃくちゃに貫かれながら、デュフォーは頭の隅で、まったく別のことを考えていた。
……存在する理由か。
確かに、この行為で心の空白が満たされる奴もいるだろう……実際、目の前に三人、いる。
けれどオレは違う。
むしろ空白が増していくばかりだ。
「んぅ…」
口の中に、わずかだが苦い味が広がる。
先ほどからこの男、デュフォーの呼吸のことなど考えず揺さぶるので息苦しかったが、それにもようやく最初の終わりが訪れようとしていた。そう、最初の。
「んんんっ…!」
「ひひっ、ひひ…」
前と後ろから、狂ったような笑い声が聞こえる。
手で扱いていたそれも遅れて果て、顔や胸に溜まった欲望が飛び散った。
場所を交代して繰り返す男達にはどうでもいい話だろうが、デュフォーはそれを、遠い世界の出来事のように思っていた。いま穢されていくのは確かに自分の身体なのに、心はそこから離れた場所で見ているだけのような……
失せゆく現実感。
今のオレは、こいつらの欲望を満たすための道具
代償に金を貰ってそうなった
道具
道具
道具……?
前にもこんなことがなかったか?
オレは生きている人間だなんて思われることなく―――――
ずっと前から
汗以外のもので湿っていく身体。
微かに声は上げるものの、男達の成すがままとなっているデュフォーを見て、男の一人が言った。
その言葉が、
「へへ……兄ちゃん、まるで人形だな」
自分達の命運を決めてしまうとも知らずに。
人形……?
ああ
オレは
結局 何も得られはしなかった
何も変わりはしないというのに
こんな
ああ 同じだ
とてつもなく憎い オレを人形にするおまえたちも おまえたちなどに僅かでも期待したオレ自身も―――
スベテガ憎イ
――――――――歓楽の声が 豚のような悲鳴に変わる―――――――
たったひとつの窓から降り注ぐ日の光の中、デュフォーはひとり立ち尽くしていた。
両手は生温かい生物の血で真っ赤に染めぬかれ、身体にも模様のように血痕が飛び散る。
この部屋にもう、生き物はいない。彼、以外には。
「…………」
足元には三人の、否、三つの死体。ひとりは首をへし折られ、後の二人は手刀による突きで、身体にまるで吸血鬼が杭でも刺されたような穴を開けられて横たわっていた。顔はみな揃って、ぐるんと目をむいた、生乾きのゾンビのようだった。
彼らの目は言う。
何故。
金を払った正当な取引、なのに何故。
何故自分達が殺されなければならないんだ、と。
デュフォーは彼らの着ていた服で適当に血やら体液やらを拭い、自分の服を着た。
別に、こんな街。
爪の間などに入った血は完全には取れなかったが、血痕をつけて歩いていても、この街の者は気にも留めまい。街を出る前に水場を探して、外から見える手だけでもちゃんと流せばいいだけのこと。
死体が見つかっても大沙汰にはなるまい。
こんな街。
解っていて住んでいただろうに。
部屋を出る際、デュフォーは物言わぬ彼らに一瞥をくれ、その視線に答えた。
「…………好きにしていいとは言ったが、殺さないとは言ってないだろ…………」
扉は閉ざされ、饗宴の跡に残されたのは、血の海に浮かぶ三つの死体だけ。
空白は埋まらない
心の空白はいつまでも埋まらない
ないものねだりと知りながら
いつまでもこの空白を そのままにしてなどおけない……
どうしたら
どうしたら。
――――その時まだ答えは解らなかった
空白を埋め得るのは
もっともっと深い空白と
同じ空白―――そう 憎しみと絶望を持つ存在
それを知るのはもう少し後のこと
いまはまだ彷徨っている 埋まらない空白を抱えながら 存在理由なきままに――――
END
こんな絵に素敵な小説を付けていただいてありがとうございます!
最高過ぎて亀は萌え死にそうです!!これ!これが理想のデュフォ!!